一般家庭の生活を知ろう

賃貸マンション経営を成功させるために最もだいじなことは、あなたの土地の特性や、位置づけを知ることです。それについては「入居者にサプライズ、業者には切り札」で詳しくご説明しますが、ここでは一般的な家族がどんなことを大切にし、どんなふうに節約しながら暮らしているのかを見て行きましょう。

「消費者のニーズを大切に!」と言いつつ設計者のマスターベーションや経営者の思いあがりでマンションをつくってしまって、入居者にそっぽを向かれることにならないように・・・。ここでは、ビジネス誌「プレジデント」の記事を引用させていただいて、30代~40代の三組のご家庭の生活を見ていきたいと思います。 川田家、山内家、そして野村家の生活費をFPが分析しています。

川田家の場合

川田家の状況

東京から約2時間の郊外都市に住む川田さん一家。10年前に結婚し、腕白ざかりの子供たちと家族4人で賑やかに暮らしている。川田さんの勤務先は地元の中小企業で、年収は手取りで300万円強。週に3日働く妻のパート収入と合わせて、毎月の手取り収入は24万円だ。

ここから毎月3万円を貯金している。ボーナスと合わせて年間78万円の貯金を続け、貯蓄額はすでに600万円に到達した。目的はマイホーム購入だ。

川田家では、7年前に下の子が生まれたときに夫婦で話し合って「今後10年間の将来貯蓄予想表」を作り、貯蓄の達成度を毎年チェックしてきた。子供たちにも「新しいおうちに引っ越そうね」と話している。おかげで今は家族みんなが節約に協力。ベランダ野菜に水をやるのは子供たちの日課だ。家族旅行は年に1回、夏休みに車でキャンプに出かけている。テントを持って出かけるので、費用はあまりかからない。

貯蓄額が目標の800万円に達するのは3年後の予定。そのうち600万円を頭金にしてマイホームを購入するつもりだ。

FPの診断

住宅を買っても貯蓄余力あり2人の子を育てながら、川田家の貯蓄はすでに600万円。金融広報中央委員会の調査では、30代の貯蓄の中央値(全体の真ん中に位置する人の貯蓄額)は200万円(2011年)。川田家の貯蓄額はその3倍だ。

成功の秘訣としてまず挙げられるのは、明確な目標に向かって貯蓄計画を立てていることだ。川田家で作っている「将来貯蓄予想表」は、ファイナンシャル・プランナーが作成する「ライフプラン表」に近い。

これは、将来にわたる年表に家族の年齢やイベント(長男が小学校入学など)を入れ、それぞれの年の収入・支出を予想して書き込む一覧表のようなもの。年ごとに予想される収入から支出を引けば可能な貯蓄額がわかり、これを累計すれば、その年までに貯められる貯蓄総額が計算できる。

ファイナンシャル・プランナーはパソコンでライフプラン表を作るが、川田家では手計算して、大きな紙に手書きしている。

イベントの欄には子供がイラストを描き、みんなで楽しみながら表を作っていく。こうすることで、家族全員が目的を共有できるのだ。毎年4月には貯蓄の達成度をチェック。数字を修正したり書き加えたりして、読みにくくなれば作り直すことにしている。ボロボロになった表は、家族の歴史の大切な記録だ。

日常の家計管理は妻が担当。家計は全般に節約が行き届いてムダがない。夫のこづかい月2万円はやや少なめだが、昼食は弁当持参なので、なんとか足りる。弁当代も含めて食費が月3万4,000円ですんでいるのは、実家から野菜や米などの食材をもらえるという理由もある。

川田さんの実家は農家で、両親は兄夫婦と暮らしている。車で1時間ほどの距離なので、少なくとも月に1度は子供たちを連れて顔を見せにいく。子供たちも従兄弟たちと遊ぶのを楽しみにしているようだ。ときには洋服や文房具のお下がりを頂戴することもある。多少ガソリン代がかかるとはいえ、精神的にも物理的にも実家と仲よくするメリットは大きい。

膨らみがちな教育費も月7,000円に抑えている。子供たちの習い事は1人1つで、長男は町内のサッカーチームに入り、長女は近所の太鼓教室に通っている。

どちらもボランティアが主宰していて月謝は安い。また、道具代があまりかからないのも隠れたポイントだ。大学進学資金はそれぞれ18歳満期の学資保険で準備中。毎月の保険料には2人分の学資保険が含まれる。

このほかの保険は夫婦とも最小限の共済だけに加入している。

 マイホーム取得は3年後の予定。600万円を頭金にして、諸費用込みで2,300万~2,400万円ぐらいの住宅を購入するのが目標だ。頭金を少なくすれば今すぐに買うこともできるが、頭金をできるだけ増やして少ない借入金で購入するのが川田さんの方針。

もし頭金600万円で2,300万円の家を買い、1,700万円の住宅ローンを組んだとすれば、返済期間30年、金利2%だと毎月返済額は約6万3,000円。

現在の家賃5万4,000円より増えるが、3年後には下の子も小学校高学年になるので、妻がパートを増やせば十分に対応できるだろう。

下の子が社会人になるころ、川田さんはまだ50代初め。
それから準備すれば、老後資金はなんとか間に合いそうだ。

山内家の場合

山内家の生活

山内家の状況

中堅電子機器メーカーでエンジニアとして働く山内さんは市民ランナー。就職したときに健康管理を目的にスポーツジムに入会したものの会費が高いのですぐにやめ、費用のかからないランニングを始めたのがきっかけだ。今では年に数回、フルマラソンの大会に参加している。

看護師として働いていた妻は、子供が生まれてからは子育てに専念中。以前は一緒に走っていただけに、夫の趣味を応援してくれるのがありがたい。

手取り収入は毎月約24万円。ランニングを続けるために多少の出費は必要だが、それ以外にはお金をかけない方針だ。筋力アップを兼ねて自転車で通勤し、車は不要と判断して持っていない。夫婦ともに一人っ子なので、いずれは親の家を相続するためマイホームを買うつもりもない。
服もたまにトレーニングウエアを買うぐらいだ。

子供がもう少し大きくなったら、今度は家族みんなで走りたいと思っている。「いずれはホノルルマラソンに参加したい」というのが夫婦の夢だ。そのためにも、着々と貯金を増やしたいと考えている。

FPの診断

ムダも見栄もない筋肉質家計

山内家の家計の最大の特徴は、徹底した合理主義を貫いているところにある。誰もが持っているものでも、自分で不要と判断したら決して買わない。見栄を排除し、必要なものだけにお金をかけるのが山内流だ。

たとえば、山内家ではこれまで車を持ったことがない。山内さんは自転車で通勤しているし、普段の買い物は基本的に生協の共同購入を利用して宅配にしている。

これならカタログを検討してから申し込むので衝動買いをしないし、紙オムツのような大きな荷物も運ばなくてすむ。

それ以外のものは、散歩を兼ねて子供と一緒に近所のスーパーまで買いにいく。今のところ、車を持つ必要性は感じていない。

携帯電話も山内さんが1台持っているだけ。妻も働いているときは携帯電話を持っていたが、今は家にいるので携帯電話は特にいらないと判断した。自転車通勤の山内さんには外でネットを見る機会もなく、通話にときどき使うだけだ。このため、通信費は固定電話と合わせて月6,000円ですんでいる。「通信費にお金をかけるのはムダ」というのが山内家の考え方だ。

保険は夫婦がそれぞれ毎月の掛け金2,000円の共済に入り、あとは山内さんが掛け捨て型の死亡保険に入っているだけ。ネットで割安なものを探して加入した。

子供はまだ小さいが、万一のことがあれば実家に戻ればいいし、妻は看護師として働くことができる。「保険にお金をかける必要はない」と夫婦で話し合った結果だ。

山内流の真骨頂ともいえるのが、「マイホームを買わない」という方針だ。いずれは親の家を相続するので、老後の住まいに困ることはない。それなら、子供の成長に合わせて賃貸住宅を住み替えればいい、と考えている。子供が小さいうちは家が狭くても問題ないし、成長して手狭になれば広めの家に移るつもりだ。大学生になれば家を出る可能性もあるだろう。
広い家が必要な時期は意外と短い。そう考えれば、状況に応じて住み替えられる賃貸のほうが合理的な選択だ。

こうしてムダを徹底的に省く一方で、趣味にはある程度、お金をかける。たとえば、走り続けるために必要な補助食品やサプリは欠かせない。また、ランニング専門誌やシューズなどの消耗品に使うお金は月1万円までと決めている。さらに、年1回は旅行を兼ねて家族で大きな大会に参加。そのための費用はボーナスから予算をとってある。

家計管理はパソコンが得意な山内さんが担当。エクセルを使って毎月の収支を計算する。月2万5,000円のこづかいも山内さんが自分で決めた。趣味の費用は別に予算をとっているので、これで十分だ。

山内家の今後の課題は教育費。今はまだ子供が2歳なので、教育費は絵本の購入程度ですんでいるが、大学進学資金は早めに貯めておきたいと思っている。また、子供がもう1人ほしいという希望もある。もっとも、現在すでに360万円の貯蓄があり、年間では30万円の貯金ができている。このペースならこれから10年間で300万円の貯金が上乗せできる。住宅を買わないなら、教育資金は十分に貯められるだろう。

さらに、子育てが一段落したら、妻は仕事を再開するつもりだ。
妻の実家は自転車で10分程度と近く、普段から頻繁に行き来している。妻が働き始めるときには協力を得られるはずだ。

山内家は家計面も体力十分。家族そろってホノルル!も、遠い夢ではなさそうだ。

野村家の場合

野村家の生活

野村家の状況

退職後すぐに家計見直しを断行

会社の経営難のため、1年前にリストラにあってしまった野村さん。すぐに再就職先は決まったものの、手取り収入は3割も下がってしまった。

妻と相談して、さっそく固定費の削減を実行。車を手放し、保険を見直すことにした。リストラ前から節約生活が身についていたので、住宅ローンを払いながらもギリギリなんとか暮らしていける。さすがに毎月は無理だが、ボーナスから少しだけ貯金もできている。

野村さんには高校生と中学生の娘がいる。2人とも公立で教育費の負担が少ないのも幸いだった。リストラにあったことは、思い切って娘たちにも伝えた。以前はそっけなかった2人が何かと気をつかってくれるようになったのが、父親としては少しうれしく感じている。

これまでコツコツと貯めてきたので、2人の大学入学金はなんとかなりそうだ。これからもっと教育費が増えるはずだが、早期退職金はなんとかとり崩さずに乗り切りたい。

ずっと専業主婦だった妻も、今はパートに出ることを検討している。根が陽気なので、営業なども向いているかもしれない、と話している。

FPの診断

中高生の子供が2人、住宅ローンもある中で、野村家は収入が3割もダウン。毎月の手取り収入は40万円から28万円になり、12万円も減ってしまった。普通の家計なら行き詰まってしまってもおかしくない。

野村家がこの状況で貯金をとり崩さずに暮らしていける最大の理由は、やはりこれまで節約生活を続けてきたことだ。

教育資金を貯めるため、妻が家計簿をつけて家計をしっかり管理。夫婦で話し合いながら、ムダのない生活を続けてきた。だから、暮らしはリストラの前後でそれほど大きな変化はない。

たとえば、食費は料理の得意な妻が以前から安い食材を探して手作りを続けてきたし、野村さんも家で酒を飲む習慣はない。子供も公立に通わせ、贅沢をさせることはなかった。服は家族でユニクロを愛用。また、本はなるべく買わずに図書館で借りるようにしてきた。

収入が下がってしまった場合、まずは手のつけやすい食費から削減しようと考えがちだ。だが、食卓が寂しくなるとみじめな気分になるし、健康に影響が出ては最悪だ。食費の削減は外食費を減らす程度にとどめたい。

また、こづかいもなるべく減らさないほうがいい。仕事に影響が出たり、やる気が出ないようでは逆効果になってしまう。野村家の場合、夫のこづかいは以前から2万円。すでに削減の余地はなく、据え置きとした。

こうした緊急事態でこそ、家族同士の心づかいが欠かせない。「給料が下がったから」などと口に出すのは禁物だ。

一方、優先して削減するべき項目は自動車経費や保険、通信費などの固定費だ。

野村家では、リストラが決まってすぐに車を手放すことを決断。古い車だったので数万円にしかならなかったが、毎月の駐車場代約2万円と自動車税などの維持費が浮いた効果は大きい。

また、これまで毎月3万円程度払っていた生命保険もすぐ見直した。子供が小さいときに加入してそのままだった定期付終身保険の定期部分を減額、妻も終身保険を解約して医療保険だけにした。これで保険料を月1万円以上減らすことができた。

通信費はもともと少ない。高校生になるまで携帯電話は持たせないと決めていたので、次女は携帯電話を持っていない。
夫婦ともほとんど使わないし、長女とは自分で使った分はこづかいから払う約束をした。

こうした引き締め生活を長く続けてきたおかげで、1年前のリストラ時点で700万円の貯蓄があり、精神的にも大きな支えになった。このお金は今後の教育費として確保する。早期退職金として受け取った1,000万円については、住宅ローンの繰り上げ返済に回すことも考えたが、教育費が一段落するまで手をつけないこととした。ずっと専業主婦だった妻は今、パート先を探しているところだ。収入が増えれば毎月の貯蓄もできるだろう。

リストラや勤務先の倒産など、家庭に経済危機が起きたときは、家族で話し合って力を合わせてこそ乗り越えられる。厳しい状況は子供にもきちんと伝えたほうがいい。子供は子供なりに、自分には何ができるか考えるものだ。

野村家の場合も、長女はアルバイトを始め、姉妹で今後の進路などを話し合ったりしているようだ。リストラにあったことで、かえって家族の絆が強まったのではないか――野村さんは今、そんな気がしている。


いかがでしたでしょうか? 一般的な家庭がいかに堅実か! 私も含め、バブルを体験された世代には耐え難いほどの堅実さです。 これは1970年生まれ以降の人、つまり賃貸マンション入居対象者に多く見られる傾向です。 喜んでもらおうと思ってせっかく設置した設備、たとえば浴室乾燥機や床暖房があまり使われていないと知ったときはショックでした。 「お金のかからない便利な機能を発案しないといけない!」と方針を変えました。

ただ、1970年以降生まれの方でも、みんながそうなのではありません。 高額所得者はやはり目が肥えていて、デザイン性が問われます。 でも景気が良かった頃と決定的に違うのは、「基本は絶対におさえないといけない」ということです。景気が良かった頃は「ちょっと住みづらいけど、カッコイイ!」というマンションも合格点を取れました。でも今は、欠点があるとその時点で土俵に上がれないのです。間取りや収納、細かな使い勝手、そして断熱性や耐震性もちゃんとクリアして、その上でデザインも優れてないといけないのです。

話が少しそれましたが、まとめますと、「その土地に集まる所得者層と、その人たちの好みにマッチングした設計をすること」です。 微妙なさじ加減で結果が大きく変わってくるので、とてもやりがいがあります。