建築費が高騰してしまいました
東日本大震災の復興作業につづいて、アベノミクスによる公共事業やりまくり、日銀による異次元の1万円札大増産、そして東京オリンピック、さらに東京都大改造。
何の準備もなく、三本の矢を放ったわけですから、職人不足になるのは当然です。建築職人は失われた20年間に高齢化し、新人を育てることもありませんでした。職人を育てるには最低でも3年間はかかります。職人手間が上がりました。それに便乗する形で建築資材も値上がりしました。消費税も8%になりました。その結果、建築費が関東で30%、関西で20%ほど上がってしまいました。
ところが、給料がいくら上がったかというと・・・上がっていない、に等しい。だから景気が回復していると言われても、実際の生活は苦しいわけです。「異次元の万札はどこへ言ったんだ!?」と叫びたいところですが、まあ日本人は、ますます工夫してエコに暮らしていくしかありませんね。
入居者のサイフに見合った家賃帯で
「建築費が20%上がったから、家賃も20%上げよう」と思っても端からムリです。分譲マンションの場合は「投資対象」としても見れるので、土地代や建築費が上がっても、外国人買いによってさらに高く売れれば、それで良いわけです。でも、賃貸マンションはそうはいきません。
しかし賃貸マンションは、あくまでサラリーマンの月給が基本になって家賃が決定しますから、いくら建築費が上がっても家賃は上げられないのです。ではどうすれば良いのか?もう賃貸マンション事業は成り立たないのか?ヒントは身近なところにありました。
軽自動車に学ぶ
戦後間もない1949年、「自動車なんて夢のまた夢」だったころ、誰にでも買える車を作ろうと企画されたのが軽自動車です。
軽自動車はどんどん普及しましたが、高度成長時代も終わりごろになると、みんなが普通車に乗るようになったので軽自動車は衰退しました。 その頃の軽自動車は小さくて、馬力もなく、遠慮気味に走らないといけない存在だったのです。ところが失われた20年と呼ばれる長い不況のなか、軽自動車はどんどん進化して、広さ、使いやすさ、パワー、装備、デザイン性など普通車となんら変わらないところまで成長し、誇りを持って乗れる車になりました。
不景気が続くなか軽自動車はふたたび脚光を浴び、燃費の良さと税金の安さで2015年の軽自動車のシェアは40%を超えています。ご覧のとおり大人4人が余裕を持って乗れる空間です。後部座席の人が足を組み替えることができるほど余裕があります。
エマージェンシーブレーキはもちろん、7速のパドルシフトまで搭載していて普通車顔負けです。さらに、安全性を大きく左右するボディの剛性が高く、5つ☆マークを獲得しています。
ターボエンジン仕様だと1200CCクラスの普通車と同じくらいのパワーを発揮し、車体が軽い分むしろ普通車より早いかもしれません! ここまで言うと、軽自動車のコマーシャルのようになってしまいましたが、実は私は日本の軽自動車に感動しているのです。「日本の軽自動車が世界を救う!」事実、日本の軽自動車は海外でも大受けで、たとえばスズキ自動車の売上高の構成は、国内はわずか23%、海外が77%です。
高い建築費を克服する
私が軽自動車の話題を出したのにはワケがあります。もちろん。 軽自動車は平面積が小さいのに室内が広いからです。 ちなみに軽自動車の代表、Nワゴンのサイズは幅が1.48m、長さが3.40mで、平面積は5.03㎡です。 それに対して小型普通車の代表、デミオのサイズは幅が1.69m、長さが4.06mで、平面積は6.86㎡です。 Nワゴンの平面積は、デミオの73%しかないわけです。
なのにNワゴンの室内の広さは、デミオに負けていません。ガタイが良い人がのると、さすがに幅が狭くて肘が窮屈と感じるかも知れませんが・・・でも、上の図をよくご覧ください、車の幅はデミオとNワゴンでは21㎝も違うのに、室内幅は9㎝しか差がありません。ドアの厚みで工夫しているわけです。でもちゃんと、サイドエアバッグも付いているし、ドアを締めるとき「ズドン!」と重い音でしっかり締まります。 広さの秘密はいくつもありますが、主な理由は天井が高いこと、そしてエンジンからガソリンタンクまで、機械を極限までコンパクト化していることでしょう。 実用性を重視するとどうしてもブサイクになりがちですが、何とか克服しています。私なんか、Nワゴンの製作途中を想像するだけで涙がでてきます。
さて、何が言いたいかというと「建築費が20%も高騰しても、平面積を73%にすれば、もともとの建築費でマンションが建てられるのではないか?」ということです。 建築費を大別すると、構造費、設備費、仕上費の3つになります。2007年以降、構造費の比率が高くなり、構造費:設備費:仕上費≒35%:35%:30%くらいです。 平面積が73%になると安くなるのは構造費と仕上げ費です。つまり全体の65%に当たる部分が27%コストダウンできるわけです。65×27=17.5%のコストダウンです。 これならほぼ、以前の建築費で工事が可能になり、賃貸マンションの採算は合います。では、平面積を27%もカットしても、今までと同じような、いや、今まで以上の居住性のマンションが創れるでしょうか? ヒントは、パリのアパルトマンにありました。
パリのアパルトマンに学ぶ
4枚の写真をご覧ください。とてもお洒落なアパルトマンですね。
このお部屋の占有面積は、何平米くらいあると思いますか?わずか16㎡です。一方、日本で16㎡のマンションはどんなのかというと、言わずと知れたワンルームマンションです。まあ、貧乏臭いこと・・・
ちなみに、パリのアパルトマン(16㎡)の間取りはこのようになっています。夢がありますね。生きる希望が湧いてきます!
もう、根本的に考え方がちがうのですね。日本のワンルームマンションは家畜小屋であります。それに対してパリのアパルトマンは夢の部屋。映画の主人公になってみたいですね。
そして、パリのアパルトマンが22㎡になると、こうなります。
「こんなところに住んでみたい!」という声が聞こえてきそうですね。22㎡のパリのアパルトマン間取りはこうです。スペースは小さいですが、うまくコーナー分けされていて、生活の全てのシーンが楽しめます。
では、日本のワンルームマンションが22㎡になるとどうなるでしょうか?
はい、全く同じです。上のは占有面積が16㎡なのでお部屋の広さは6帖ですが、下のは22㎡なので、お部屋が8帖になるだけです。まあ、ユニクロのジャージのSサイズとLサイズみたいなものです。「仕事に疲れて帰ってきて、あんた寝るだけででしょ」みたいな気がしませんか?もう、この画像はみたくありませんね。ヘキエキしてきました。
パリのアパルトマンと日本のワンルームマンション、どうしてこうも違うのでしょう?日本人はセンスが無いのでしょうか? まあ、それもあるかもしれませんが、最大の原因はセンスの差ではありません。空間を大事にするかしないかです。言い換えると、入居者を大事にするか、バカにしているかの差です。
最後にもうひとつ、パリのアパルトマン(30㎡)のインテリアをお楽しみください。
30㎡でここまでできるのです。なんだか勇気が湧いてきましたね!建築費が高くなっても、工夫の余地はまだまだあるのです!建築費が高くても、儲かる賃貸マンションはつくれる!
建築費が高騰したときは正直いって慌てましたが、他の業界を見渡すと、どの業界でもほんとうに凄い努力をしていて、むしろ以前より素晴らしい物を生み出しています。「人間ってすごいなぁ~」と、感動してばかりいられないので、大人がしっかり暮らせるマンションを設計しました。まずは「大人の一人暮らし、21㎡」です。どうぞご覧ください。
大人の一人暮らし(21㎡)のコンセプトは「仮住まいではなく、本気で住んでいただける、堂々とした住まい」です。ですからファミリーマンションと同じ設備がすべて整っています。「もうこれは、軽自動車じゃない!」と言わせたNワゴン級のできと自負しています。これだけ充実した間取りのマンションがあるか、どうぞネットで探してみてください。おそらく30㎡近いお部屋になると思います。
ではつぎに、「大人の二人暮らし暮らし、32㎡」をご覧ください。
大人の二人暮らし(32㎡)のコンセプトは「大人二人がしっかり暮らせる住まい」です。それぞれの部屋で使うものを、それぞれの場所に収納できるように設計しました。ウォークインクローゼットはかなりの大容量です。キッチンとリビングダイニングの距離感も微妙に調整しました。ダイニングテーブルとソファもちゃんと配置でき、パリのアパルトマンのようなお洒落た生活ができます。これくらい充実した間取りをネットで検索すると、40㎡超えになってきます。