吉田兼好の時代は当然ですが、1950年くらいまで日本では冷房はもちろん、暖房もありませんでした。余談ですがローマでは古代から「ハイポコースト」といって、炉の熱気を床下に送り込む暖房がありました。
中国や朝鮮半島にも同じような床下暖房「オンドル」があります。これらは家全体を温めるセントラルヒーティングです。おそらく位の高い人や裕福な人達のものだったと思われますが、たいしたものですね。当時、朝鮮半島と日本との行き来はありましたが、オンドルは日本には受け入れられませんでした。その理由は定かでありませんが、「日本は凍死するほど寒くはない地域が多いからだろう」というのがおおかたの意見です。なぜそう思うかというと、1973年のオイルショックのとき、欧州では省エネや建物の耐久性のために法律で断熱方法が規定されたのに、日本ではそうならなかったからです。その時点で日本にもストーブはありましたが、あくまで家全体を温めるのではなく、手をかざして暖を取るスタイルでした。
家全体を暖めず、火に手をかざすことを採暖、局所暖房といいます。採暖の代表がホームゴタツです。ホームゴタツに潜り込んで過ごすのが日本人の生活スタイルなんですね。
でも本当は、家全体をまんべんなく温めたほうが不精になりませんし、何より健康に良いのです。ホームゴタツの中は40℃以上あるでしょうし、トイレや脱衣室は5℃くらいです。こんなに温度差があるところを行き来して体に良いわけありません。実際に入浴中の急死者は年間1万2000人を超え、交通事故死者数の3倍くらいです。
ではなぜ、先進国のひとつである日本人は家全体を温めないのでしょうか?ズバリそれは光熱費を節約するためでしょう。世界の先進国中、ダントツに暖房費を節約しています。
イタリアのは日本とよく似た気候だと思うのですが、暖房費は日本人の3倍くらい使います。
ここでちょっと、イタリアの暖房事情を覗いてみましょう。イタリアの家庭の暖房は温水循環式ヒーターです。温水循環式ヒーターは輻射方式であり、アパートメントにも標準装備されています。各部屋はもちろん廊下やバスルームなどにも設置されています。
温風や赤外線が出ず、さり気なくポカポカと部屋全体を暖める輻射方式。「いかにも暖房している」といった押し付けがましい暑さになりません。熱の自然対流で壁や床、人の表面温度を上げる輻射方式のリスカルダメントは、ヒーターのそばにいなくても半袖で過ごせる程、部屋全体が均一に暖まります。 なるほどこれは心地よさそうですね。でも、資源のない国でこんなに光熱費を使っていたら家計はもちろん、国が破産するかもしれません。 でももし、今、日本で使っているくらいの光熱費で、これくらい心地よい空間がつくれるとしたら、きっと日本人も受け入れてくれるでしょう。 冷房についても同じことが言えます。光熱費を節約しながら家中をカラッとさわやかな空間にすることを目指して設計しています。