これはクリモグラフといって、縦軸に温度、横軸に湿度を示したグラフです。グラフ内に小さな数字がありますが、それは「月」を表しています。例えば東京は緑の線をご覧ください。8月の平均気温は27.5℃で平均湿度は73%です。東京の1月の平均温度は5℃で、平均湿度は50%です。つまり夏は蒸し暑く、冬はカラッカラに乾燥しているわけです。北緯35度の東京ですが、夏は赤道直下のジャカルタに負けないくらい蒸し暑く、冬は北緯48度のパリなみに寒くなり、夏冬の気温差がはなはだ大きいのが特徴でしょう。
「それがどうした、いまさら聞かなくても知ってるぞ!」とお叱りを受けそうですね。
さて、徒然草の吉田兼好いわく、「家のつくりやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑き頃わろき住居は、堪へがたき事なり。」これは「冬は重ね着で調節できるが、夏は裸になっても暑いから風通しの良い家にしなさい」ということでしょうか?
実際、日本の家屋は軸組工法といって、柱と梁で建物を支えています。柱と柱の間には障子やフスマ、雨戸などがはめ込まれていて、いつでもそれら開け放して風通しできるようになっています。さらに、深い庇で夏の日差しが室内に入り込むのを防ぎます。つまり夏仕様なのです。
では本当に、日本の気候は夏のほうが厳しいのでしょうか?つぎの円グラフのうち、右の円グラフをご覧ください。
冷房にはほとんど電気代を使っていません。以外でしたか? いいえ、以外に思ったのはあなただけではありません。環境省のアンケートによると、「家庭用エネルギーの用途は、暖房が最大用途と回答した世帯が全世帯の40%、冷房が最大用途と回答した世帯が全世帯の30%いた」という調査結果だったのです。(左の円グラフ)つまり、多くの人は冷房に電気代をたくさん使っていると思っているわけです。 これはいったいどういうことでしょう?吉田兼好も現在人も「夏の蒸し暑さはタマラン!」と参っているのですね。
ところが実際には東京の8月の平均気温は27.5℃であり、たいして高くありません。問題は湿度が異常に高いので蒸し暑さがタマランのです。だから除湿さえしっかりすれば温度は1~2℃下げるだけで涼しくなります。エアコンは除湿するのが得意ですからそれほど電気を食いません。
それと比べて冬の気温は本当に低く、東京の2月の平均気温は5℃です。これを23℃くらいまで温めるには18℃も加熱しなければなりません。だからたくさんのエネルギーを食うのです。
吉田兼好の時代にエアコンはなく、夏は裸になっても耐え難いので「家の造り方は、夏を旨とすべし」でしたが、今はむしろ「冬に強い家」をつくるべきなのです。つまり太陽から頂いた熱を大事に蓄えて温かい家にします。そのためには充分な保温が必要です。「保温」というと温かいものが冷まさないイメージですが、実は冷たいアイスクリームが溶けないようにする効果もあるのです。
だから、夏も冬も保温は大事です。
追伸 : 建築業界では保温のことを「断熱」と呼んでいます。 このネーミングは失敗でしたね、分かりづらい・・・。 もっとひどいのは「気密」です。国家機密?? 息苦しくなりますよね。これもネーミングが悪かった。 「気密」とは家にスキマ風が入らないようにするという意味です。