マンション経営を成功に導くためには、物件が入居者に選ばれる賃貸マンションである必要があります。そのようなマンションを作るための秘密を解説するとともに、そうしたマンションは入居者だけでなく賃貸業者(仲介業者)にも選ばれる、ということにつてお話していきたいと思います。
入居者に感動を!
突然ですが、この写真は何でしょう? そうです、新幹線の折りたたみテーブルです。注目して欲しいのは、テーブルを倒すときに回すつまみの真ん中の「小さな突起物」です。小さな突起物はどんな役目を果たすのでしょうか?
「はい、ジャケットを掛けられます」
窓ぎわの席のひとは窓の横にあるフックにジャケットを掛けられますが、通路側の人はかけるところがありませんね。 これでは困るということで、新幹線の設計の人が700系から一工夫したわけです。テーブルを倒すと、背もたれとテーブルのあいだに5センチくらいの隙間ができます。つまみの真ん中の突起物にジャケットをかけると、ジャケットは背もたれとテーブルの間にすっと入ります。幅も丁度です。
ぜひ、あなたも、やってみてください。実に感動モノです! もしこの突起物がなかったら、ジャケットはもちろんシワシワになりますし、マクドナルドのケチャップがつくかもしれません。 いまから大事な契約に向かうのに、ケチャップのついたジャケット望むかと思うと気が遠くなりませんか?
では、この突起物をつくるのにいくらかかったかというと、100円ほどです。 たった100円で、何千人、何万人という人のジャケットが救われるのです! ほんとうに凄いですね。
賃貸マンションも顧客視点でのきめ細やかな設計で感動させる
私一人が感動していても仕方ないんですが、こういうことだと思うんです。お金をかけずに乗車客や入居者に喜んでもらう。期待以上の配慮に感動していただく。賃貸マンション経営もそんな時代に入ったのだと感じています。
「うぉ~、こんなことまで考えてくれたのか!」と入居者が感動してるところを想像しながら設計する、これこそ建築家のだいご味です。
Mac安田が設計した賃貸マンションの仕掛け
私が設計するマンションには、居住者に感動をお届けする仕掛けを用意しています。ここで少し、その仕掛けを披露させてください。
玄関の自転車用スペース
まずは玄関から。最近はずいぶん高価な自転車をお持ちの方がふえてきました。大切にしている自転車を駐輪場におくのはちょっと心配ですね。自宅の玄関の土間を少し広くして、愛車をおけるようにしました。 壁の色もシックにして愛車がより綺麗に見えるようにしました。
ブラウンの壁にある白いバーは、小物かけのレールです。 この写真では絵を飾っているのでフックが隠れていますが、実は小さなフックが5つほど用意されていて自由にスライドします。そこにケイタイやカバン、帽子などかけられてとても便利です。ひとつ反省があります。フックつきのバーは壁と同色にすべきでした。同色にできない場合は壁と天井の接線に取り付けるべきでした。以後、改善いたします。
キッチンのスパイスラック
つぎは、キッチンのスパイスラックをご紹介しましょう。わずか奥行き7センチのスパイスラックですが、あると無いとでは大違いです。しかもお洒落でしょ。奥の壁はガラスモザイクで、光のあたり方によって表情が変わります。棚はガラスで、掃除しやすくなっています。 スパイスだけでなく、ちょっとした小物もおけてキッチンが楽しくなりそうですね。
キッチンのカウンター
つぎは、キッチンのカウンターです。カウンターがついているとカッコイイ。 でも、ダイニングテーブルを置こうと思うとカウンターがじゃまになる。LDKがじゅうぶん広ければ良いのですが、現実には限られた面積の中での工夫となりますので、こちらを立てるとあちらが立たず・・・ということになるのです。 そこで折りたためるカウンターにしました。
上の写真はカウンターで食事をとるスタイルです。 下の写真はカウンターを折りたたんで、ダイニングテーブルで食事するスタイルです。
上の写真をよく見ると、壁が凹んでいて、カウンターはそこへ収まります。 カウンターを折りたたんだとき、15センチ幅のカウンターが残るようにしました。 15センチあれば直径23センチの洋皿が乗せられるので配膳台になります。
インナーバルコニー
つぎは、インナーバルコニーをご案内しましょう。そもそも、マンションのバルコニーはなんのためにあるのでしょう?
- 物干し
- エアコンの室外機置き場
- プランターでトマトなどを育てる
バルコニーは絶対必要なのか? 他になにかよい方法はないのか、考えてみました。
- 天気の良い日はもちろん外干ししたいが、一年365日のうち、安心して外出できる日はいったい何日あるだろう?
- エアコンの室外機は設計しだいで別のところにおける
- 十分な窓があれば観葉植物なら室内でも育つ
なので、このマンションはインナーバルコニーとしました。本当は室内なのですが、屋外のような仕上がりにしました。 インナーバルコニーの床はもちろん水に強い材料にして、昇降式物干しを取り付けました。また、洗濯物がよく乾くように、部屋干しファン(洗濯物を乾かす扇風機)と、換気扇を設けました。洗濯物を乾かすコツは風と除湿です。天気の良い日は部屋干しファンと換気扇で充分乾きます。梅雨時など、外干しではなかなか洗濯物が乾かないシーズンでも、お部屋を冷房していると、冷房=除湿 なので、うまく乾きます。冬はお部屋を暖房すれば、洗濯物が乾きます。乾燥しすぎるお部屋を加湿する効果もあります。ご安心ください。外断熱ですから結露しませんし、カビも生えません。
ウォークインクローゼット
続いて、ウォークインクローゼットです。ハンガーパイプだけでなく、棚の収納も設けました。 セーター類など整理して収納できますし、棚の高さは自由に変えられるようになっているので、とても効率良く収納できます。 同じ大きさのウォークインクローゼットでも一工夫でずいぶん収納量が違ってきます。
「+1」の部屋
さてこんどは、「+1」の部屋です。このマンションは専有面積が50~60㎡ですが、2LDKにせず、あくまで「1LDK+1」です。このお部屋の場合「+1」はベッドルームに続くこのスペースです。 持ち帰り仕事のワークスペースにもできますし、趣味の部屋にもできます。 ベビーベッドのスペースとしても使えますし、小さなお子様の遊び場としても使えます。 もし、カウンターがじゃまになるようでしたら、折りたためます。
エレベーターホール
エレベーターホールにもちょっとした工夫があります。このマンションは1フロア3戸で、すべて角部屋です。 EVホールに面して3つの玄関ドアがあって、玄関ドアはそれぞれのコンセプトカラーになっています。
ご覧のとおりホールは室内なので音が反響しやすく、工夫しないとドアの開閉の音やおしゃべりが異常に響いたりします。そこで、玄関ドアを防音仕様にするとともに、天井に音楽室用の穴あきボードを使って、天井裏で吸音しています。また、匂いがこもらないように窓があります。 このように、ちょっとした配慮でずいぶん住みやすいマンションになります。
外観
最後になりましたが、外観をご覧ください。 外観のコンセプトはつぎの2つです
- マンションらしくないこと
- ずっと前からあった建物のように感じること
一瞬でマンションだとわかる建物って、寂しくないですか? 「この建物はなんだろう?ちょっと中も覗いてみたいなぁ」と思ってもらうくらいの建物にしたいもんですね。だからこんな外観にしました。
それと、ちょっとレトロにし仕上げました。 なぜなら、今流行の素材やデザインにすると、10年ももたないからです。 マンションは少なくとも100年くらいは使いたいですし、また使えるものです。 だったらいっそのこと、100年以上前からあったようなデザインにしておいたほうが、長持ちすると思うのです。
100年以上前の建物のすべてが素晴らしいかというと、けしてそうではありません。デザインの良くないものやいい加減な建物は、人に愛されずに早い時点で解体されてしまします。逆に100年以上も残っている建物はみんなに認められた建物なので、大いに参考になります。
居住者に感動を贈るだけでは足りない
ここまで紹介してきたことは、入居者に選ばれる賃貸マンション経営のために、本気で居住者のことを考えて実施した工夫の数々です。でも、マンション経営者にとって賃貸業者(仲介業者)の存在も無視することはできません。
賃貸業者に契約の切る札となる「お宝物件」と認識させる
入居者がお部屋探しをする時、最初に行うのはネット検索です。ネット検索は次の手順で行います。まずは沿線から、そして駅を指定し、間取りや広さ、設備を見て、候補を絞り込んでいく、というものです。
- 住みたい路線と駅
- 駅からの距離・間取りのタイプ・専有面積
- 付属している設備
- 築年数
上記の1と2はわかります。3もわからないではありません。でも、なぜ4の築年数で絞り込むのでしょうか?入居者に聞いてみました。そしたら「あまりに物件が多すぎるから・・・同じだったら新しい方が良いよね」という程度らしいです。
実は築年数が重要なのではなくて、同じようなマンションばかりだから、築年数で篩にかけるだけなんですって・・・聞いてみれば納得できますよね。
ネットでの検索は、現在のところ上記のように数値ではっきり示せる項目しかありません。もちろん、建物が醸し出す雰囲気や趣なんて項目はどこにもありません。ですから、賃貸業者に「お宝物件」と認識されないと、実力が発揮できないのです。
ネットで候補を絞り込んだあと
さて入居者は、ネットで物件を絞り込んだあと、どんな行動をするでしょう? そうです。プリントしたものをもって賃貸業者の窓口へいきます。プリントした物件の現物を見ることも目的の一つですが、「ひょとしたら、もっと良いお部屋がお店にあるかもしれない」と期待をして来店します。
賃貸業者の担当者は、入居者が持参した数枚のプリントに目を通したあと、そっと、お宝物件の資料をカバンに入れて、入居者を車に乗せて現地案内します。入居者がプリントしててきた物件でバチッと決まったら良いのですが、ピッタリ来ずに迷っているようだったら、「こういう時にと思って、とっておきの物件ご用意してるんですけど・・・ご覧になります?」と控えめに言います。
入居者としては「いいえ結構です」とは言いません、見るのは只ですから。「ただ・・・お客様がお探しの駅とちょっと違うんですが・・・まあ、乗ってしまえばそんなに時間は変わりませんし・・・」と業者がささやきます。「まあ、見るだけは見るか・・・」というノリでいくわけですが、いざ現物を見れば、いままで何軒も見てきたマンションと全然違うので、そこで感動!するわけです。
「今までの物件、何だったの??」これは私の設計した物件の、いつもの勝ちパターンです。まずこれで決まります。なぜなら、他にある無数のマンションと明らかに違う、趣のある仕上がりだからです。ずいぶん手前味噌になってしまいましたが、これ、事実なんです。面白いように入居者が決まるのです。
そして長く住み続けてくれる
しかも、私のつくったマンションは入居者が長い間住み続けてくれるのが特徴です。なぜなら外断熱でとても住み心地が良いからです。実はこんなエピソードもあります。
ARK洛央という京都の中心部にあるマンションですが、ある入居者が退去されました。斜め向かいにある宅急便の集配所に早朝にトラックが終結するのでうるさくて眠れないというのが理由です。他のマンションに移られたのですが、どうしてもARK洛央の住み心地が忘れられず、また改めてご連絡を頂いたのです。曰く「奥の方のお部屋、空いてませんか?」
私が知る限り、一度退去された方が同じマンションに返り咲くというケースは初めてです。よほど住まい心地が良かったんですね。