9月は涼房で充分

京町家のアイデアを現在に

京都の町家では、暑さの元凶となる日射を屋外に設けたヨシズやスダレによって遮り、室内でやむを得ず発生した暖気は、屋根裏の空間や生活空間ではない2階の部屋に自然に上昇していくようにして、また、その一方で中庭に打ち水をして蒸発冷却によってわずかに低温の地面や空気を創りだす。
打ち水をした中庭とその周辺にある室内空間にできる温湿度の差は、室内で気流のゆらぎを呼びおこし「涼しさ」を作り出す。これは涼房の古典的事例といってよいだろう。

京町家の涼房の知恵(出典:南雄三著 通風トレーニング)

京町家の涼房の知恵(出典:南雄三著 通風トレーニング)


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と、落ち着いていてもいっこうに解決しない。
ちなみに京町家とは金持ちの家である。
職住一体型であること、そして間口が狭いことから庶民の家だと思われがちだが、実は商売で成功をおさめた人の立派な家である。
図に示すのが代表的な造りであり、けっこう大きな家である。
涼暖のアイデアは取り入れたいが、現在の小さな都市住宅ではそのまま採用するわけにいかない。

下の表は京町家のアイデアを現在の都市住宅に置き換えたものである。

京町家の涼房策 現在の都市住宅の涼房策
屋外に設けたヨシズやスダレ 暑い時期のみ日射をカットする特殊外付ブラインド
室内でやむを得ず発生した暖気 バス・洗面にも局所換気(同時給排)
生活空間ではない屋根裏や2階 屋根と外壁の遮熱・断熱を徹底的し、小屋裏も活用

中庭に打ち水をして蒸発冷却によるわずかに低温な地面と空気

夏季でもほとんど日射が当たらない家と家の隙間にブロック塀を建て、水を点滴する(湿度センサー)
温湿度差による気流のゆらぎ

ゆらぎはあきらめ、上記ブロック塀付近の若干温度の低い空気を静圧換気扇で各室へ誘導する

 

放射冷却

大気上層の温度は、夏冬を問わず地表付近の温度に比べて低い。
したがって、大気上層は地表に向かって冷放射エクセルギーを放っている。

宇宙に向かう放射冷却は真上が大きい(出典:宿谷昌則教授 エクセルギーと環境の理論)

宇宙に向かう放射冷却は真上が大きい(出典:宿谷昌則教授 エクセルギーと環境の理論)


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大気は、波長8~13μm(マイクロメートル=百万分の一メートル)の放射をよく透過する。 この波長範囲を「大気の窓」という。
私たちの皮膚に暖かさを感じさせる「遠赤外線」の波長は2.5~100μmであるから、その一部が大気の窓から宇宙に出て行く。 最も多く出て行くのは真上である。

外気温湿度と冷放射エクセルギー(出典:宿谷昌則教授 エクセルギーと環境の理論)

外気温湿度と冷放射エクセルギー(出典:宿谷昌則教授 エクセルギーと環境の理論)


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では、どのくらい冷却されるのだろうか
外気相対湿度が低いほど、また外気温度が低いほど大きくなる。
冬の晴れた冬、外気が0℃;40%のとき5.5W/㎡、32℃;60%のとき1W/㎡となる。
蒸し暑い夏の冷放射エクセルギーは冬に比べてずいぶん小さいが、それでも工夫次第で充分に役に立つ。

たとえば上の表内に、「夏季でもほとんど日射が当たらない家と家の隙間にブロック塀を建て、湿度センサーで水を点滴」とあるが、これはこの画像のような場所である。

建て込んだ都心の家と家の隙間は年中日影である

都心の家ではこのようなシチュエーションはいくらでも存在する。
というより都心の家の場合、日当たりが良い部分を探すのが難しいくらいである。
私は夏の間、毎日測定したが、特に水分を点滴しなくても一度雨が降るとブロックは水を含んで乾きにくく、ブロック塀の温度は外気温よりもつねに2℃程度低い。
わずか2℃と思われるかも知らないが、この2℃が思いの外大きい。
関東や関西の9月はまだまだ暑いしエアコン冷房は欠かせないと認識されていると思うが、実はそんなことはない。
上記を実践すると確実にエアコンは無しで涼しい。