入居者の部屋選びからみる「選ばれる」物件の条件

入居者斡旋業界には「3社5室の法則」という言葉があります。入居希望者が部屋選びをする時は、たとえばエイブルやミニミニ、アパマンなど3社の支店をまわり、5室くらいの部屋を見て決めるのが相場であるという意味です。これは3社×5室=15室ではなく、合計5室くらいの部屋を見ただけで決定するということです。

意外に少ないと思いませんか? 私もそれを聞いた時は不思議に思いましたが、部屋探しの入り口であるネット検索の時点で、かなり吟味しているのかもしれません。何人かの店長に聞きましたが、やはり3社5室の法則は遠からず当たっているようです。

入居者は意外に簡単に契約する

それにしても、入居者は簡単に部屋を決めるものなんですね。たとえば毎月家賃が7万円だとして、1年で84万円、2年で168万円、それに保証金などを加えると200万円くらいの支払いになります。200万円、これはもう車1台買うような大金です。

200万円もするような大型商品を、こうも簡単に”買う”ものなのでしょうか?もっと吟味するものだと思うのですが、家賃に関しては脇が甘くなるのが現実のようです。

入居希望者には、4〜5枚のカードが用意される

脇が甘くなった入居希望者(希望者)から、契約を取るのは簡単です。入居斡旋業者(斡旋業者)は、希望者がカウンターに来ると、要望をいろいろ聞きます。しかし最近は、ネット検索して絞り込んだ物件をプリントしてカウンターに持ち込む希望者が多いので、斡旋業者としては手間が省けます。

プリントされた部屋を含めて、希望者の好みに合うような部屋を4〜5室選んで車で案内します。4〜5ヵ所まわると、半日くらいはかかります。この時、斡旋業者が選ぶ4〜5つの部屋を「カード」と呼びます。

効率的に契約をとる手段

効率よく契約に結び付けるにためには、カードの選び方とカードを出す順番が大切になります。もちろん、一番いいカードは最後に出すのが常套手段です。まず最初に、どう考えても駄目な部屋を見せて、希望者をガッカリさせます。次に、ちょっといい部屋を見せて楽しくさせます。3番目は2番目と似たりよったり、そして4番目のカードも今イチで、期待値を下げたところで切り札を出すのです。

切り札を出す際、「これは店長のお宝物件です!」とか、早く決めないとこの部屋はなくなるという意味のことを調子よく付け加えます。たいてい、これで部屋は決まり、めでたく契約ということになるわけです。いかがですか。こんな古典的な契約方法が今も延々と使われているわけです。

捨てカードになるか、切り札になるか

大切なのは、古典的な方法がどうであれ、「捨てカード」になる部屋と、「切り札」になる部屋が存在するという、厳然とした事実です。もしあなたの収益住宅が、「捨てカード」として扱われていたら、これはもう地獄です。いつまで経っても、希望者に選んでもらえません。

全5枚のカードから切り札の1枚を除いた残る4枚のうち、3枚は並みのカードです。あなたの収益住宅が並みであれば、運よく入居者が決まることもあれば、なかなか決まらない時もあります。1週間に1回のチャンスがまわってきたとしても、1ヶ月近くかかってしまいます。

しかも、3枚の並みのカードはドングリの背比べですから、早く契約しようと思うと値引き競争に追い込まれます。収支を重視する収益住宅にとって、適正な家賃額を下回るようなことは、決してあってはなりません。やはりあなたの収益住宅は「切り札」、つまり「店長のお宝物件」にならないと駄目なわけです。

切り札にしてもらうための「ウリ」が必要

店長に媚を売ったからといって、お宝物件に指定してくれるわけではありません。それなりの「ウリ」がないといけないのです。斡旋業者のスタッフが、「本当にいい部屋だなあ、自分も住みたいくらい!」などと思っていないと、「店長のお宝物件です!」と営業マンがいくら力んでも、希望者の心には響きません。

ですから、収益住宅の設計時点から有力な斡旋業者と打ち合わせを行ない、スタッフが納得して進めてくれるような部屋を造らないといけないのです。しかし大切なのは、斡旋業者のいいなりにはならないことです。

斡旋業者は入居者からのアンケートを集計し、「入居者からのニーズ」としてまとめているのが普通ですが、マーケティングの大御所である神田正則先生もおっしゃっている通り、商品(収益住宅)はニーズを後追いするのではなく、消費者(入居希望者)をリードするくらいのつもりで設計しないと駄目です。特に収益住宅は「夢を売る仕事」ですから、夢がないようでは失格です。