エアコンは冷房と暖房の両方に使えてお得感がありますが、本来は冷房と暖房ではぜんぜん違ったやり方をしないとダメで、エアコンは冷房専用としてつかうべきです。
体の芯から温まる暖房の仕方
人は室内気温とともに、自分の周囲の床・壁・天井や窓などの温度を感じて暮らしています。自分の周囲のものの温度をMRT(平均輻射温度)と言います。そして人間は、室内空気とMRTとの平均の温度を感じていると言われています。
作用温度 ≒ (室内気温 + MRT)÷ 2
たとえば下の絵の左の部屋は、床・壁・天井・窓ガラスが冷たく(平均8℃)、エアコン設定が高い(26℃)場合です。→(26℃+8℃)÷2=18℃右の部屋は、床・壁‥天井・窓が暖かく(18℃)、室内の空気も18℃になっている場合です。→(18℃+18℃)÷2=18℃
左右どちらも作用温度は18℃なので、上記の理屈によると同じ暖かさに感じるはずですが、実際に部屋に入ってみるとぜんぜん感じが違います。左の部屋に入ると頭がボ~とするのに筋肉には緊張感がある、何ともぎこちなく、不快な感じです。というか、今までの家はたいていこうです。右の部屋は頭がスッキリして、筋肉はリラックスしてとても快適です。これから建てる家は、是非こうしたいものです。なぜ、これだけ差が出るのでしょう?
実は上記の式は間違っています。実際には次のように修正したほうが体感に近いのです。 作用温度 ≒ (室内気温×1 + MRT×2)÷ 3 左の部屋 : (26℃×1+8℃×2)÷3=14℃ 右の部屋 : (18℃×1+18℃×2)÷3=18℃
なるほど、右の部屋のほうが暖かいことが数字で表せました。しかしこれでは、体感として納得できません。それをさらに納得させてくれるのが、エクセルギー理論なのです。 エクセルギー理論が解明してくれます。
左の部屋における人間のエクセルギー消費量は4.4W/㎡ですが、右の部屋では3.3W/㎡なので、人間のエクセルギー消費量が75%で済む、すなわち「疲れ方が75%で済む」というわけです。
ちなみにハワイの夕暮れは室内気候、MRT共に22℃でした。「プロとして、実測する義務がある!」と家族に伝えてハワイへ行ってきました、ごめんちゃい! ハワイの夕暮れのエクセルギー消費量は2.6Wと、日本の従来の家と比べてわずか60%のエネルギーで生きていけるわけです。疲れ方は40%OFF。これは快適なわけですね!
さてどうすれば、ハワイの夕暮れのような気持ちのよい部屋をつくれるでしょう? エアコンは室内の空気を温めるのが仕事ですから、どうしても左の部屋のような状態になってしまいます。家の断熱性能が高ければそのうち床・壁・天井・家具など(MRT)も暖まってきますが、室内の空気の温度と、MRTが同じになるということはまずありません。 さらにもうひとつ、エアコンの弱点があります。それは室内に風を起こすことです。風は体温を奪います。からだの周囲にある暖かくて湿度の高い空気の膜を、風が追い払ってしまうからです。その点では全館空調システムも同じです。つまり、室内の空気を暖めるという発想ではダメなのです。
リスカルダメント(温水輻射パネル)を断熱性能の高い家に設置すると体が芯から温まります。弊社の事務所は古い建物で断熱性能はぜんぜんダメですが、それでも窓際に置かれた温水輻射パネルはじんわりと背中から暖めてくれます。
こうして考えると、「人間は、室内空気とMRTとの平均の温度を感じている」と言われてはいますが、実際にはMRTの影響、つまり床・壁・天井・窓・家具からの輻射平均温度の影響を強く受けていることがわかります。
最後になりましたが、理想的な室内温熱環境、つまり「ハワイの夕暮れ」を日本で再現する方法は次のようになります。
家そのものを暖める → その結果、室内の空気も暖かくなる
この順序が大切なのです。しつこいようですが、空気を先に温めてはダメです。具体的には、※ 家を次世代省エネ基準を越える高性能な外断熱にする。※ 基礎部分にコンクリートの蓄熱体をつくり、温水パイプを敷設して暖める。※ 秋口から春先まで連続して暖めると家の構造体そのもの(MRT)が暖かくなる。※ その結果、部屋の空気もMRTと同じ温度になる。 たったこれだけです。 心配なのは、秋口から春先まで連続して温水パイプで暖めるときの燃料費ですね。それを解決する方法は、次世代省エネ基準を越える断熱性能を持たせることです。つまり、家に厚着をさせるのです。
分厚い靴下を2枚重ねて履く、ヒートテックのズボン下を3枚重ねて履く、ヒートテックのアンダーシャツを3枚重ねた上にダウン入のジャケットとを着る。スキー用の手袋をつける・・・どうです? 聞いただけで暖かくなってきませんか? これを、あなたが着るのではなく、家に着せるのです。そうすれば僅かな燃料代で家の構造体、つまり基礎、柱、床、壁、天井、家具など全てが暖かくなります。私の家の金属製のドアハンドルは触ると暖かいです。これ、ホントの話です。さらに2015年からは、太陽熱を取り込むハイブリッドソーラーシステムを採用し、優雅な住み心地をエコに味わえるように改良しています。エコ&優雅 HAWAIIライフ住宅も合わせてご覧ください。
ハワイのヤシの木陰でそよ風に吹かれる空間のつくり方
日本の夏は本当に蒸し暑いですね。「蒸し暑い」とはよく言ったもので、湿度が高いから嫌な暑さになるわけです。もし乾燥していれば、気温が35℃あってもカラッとした暑さになって、まだ過ごしやすいですよ。ワイキキビーチにいるとき、直射日光に当たればもちろん暑いですが、ヤシの木陰に入ってそよ風に吹かれていれば涼しい、という体験をなさった方も多いかと思います。
逆に気温が25℃であっても、湿度が高いと蒸し暑く感じます。 では、「蒸し暑い」か「涼しい」との境目は何か? どんな条件だったら暑くないのか・・・それを知る鍵は、絶対湿度がにぎっています。ところが気象台は、相対湿度を発表します。 次の図は、気象台が発表している2012年8月の名古屋の気温と相対湿度です。
気温だけで暑さが分かるなら世話ないのですが、湿度が絡んでくるので実際にはどの日が暑かったのかわかりません。それを知るためには、めんどくさい湿り空気線図が必要になります。もちろん絶対湿度を自動計算するアプリもありますが、たまにはアナログもよいものですから、試しにやってみましょう。
その前に、絶対湿度とは「1㎏の空気に何グラムの水分が含まれているか」という意味です。 実は空気は意外と重たくて、1立方メートル(縦・横・高さがそれぞれ1メートルの立方体)の空気は約1.3㎏もあります。ここでは大体のイメージをつかんでほしいので、1立方メートルの空気に何グラムの水分が含まれているかを、絶対湿度と考えましょう。
たとえば8月15日の平均気温は28.3℃で、平均湿度は78%ですから、湿り空気線図にあてはめると絶対湿度は約20グラムです。(赤い線)その日、名古屋の人は「暑いでいかんわ!」と言っていたとのことです。 でも、8月20日には概ねの人が「涼しいがね」と言っていたそうです。その日の平均気温は28.1℃と15日とさしてかわりませんが、相対湿度は65%でした。気温28.1℃、相対湿度65%を湿り空気線図に青い線で示しますと、絶対湿度は約16グラムです。 同じ気温でも、絶対湿度が4グラムちがうと、「暑い」から「涼しい」に変わります。
ですから、蒸し暑い日本の夏を気持よく過ごそうと思うと、温度を下げるよりも除湿することがポイントだということがわかりますね。そこでもう一度、気象台発表の気温と相対湿度の表をご覧ください。
8月の最高気温はテレビニュースで言っているとおり、33℃~35℃と高温ですが、平均気温は意外と低く、28℃程度です。実際、8月20日の名古屋の気温は28.1℃でしたが、相対湿度が65%、絶対湿度が16グラムだったので涼しかったわけです。ですからエアコンで冷房の温度設定を25℃にすると冷えすぎるのです。でも、そうでもしないと涼しくならないのが従来の日本の家屋です。 エアコンは冷やしながら除湿をするのですが、いかんせん建物がスキマだらけなのでせっかく水分を集めて外へ捨てても、屋外の湿気がスキマからどんどん入ってきます。
なのでエアコンはさらに頑張って・・・寒くなりすぎるわ、電気代はかかるわ・・・。その対策は? ※ スキマを埋める※ エアコンを冷房を27℃に設定する(除湿運転するとよけいに電気代を食う)※ 同時に除湿機をつかう(消費電力は1時間あたり8円と安い)
1日に18リットルといっても分かりづらいですね。たとえば広さ100㎡の家の体積は、天井の高さが2.5mだとすると、250立方メートル。250立方メートル×4グラム=1000グラムつまり、1リットルの水分を除湿すれば良いわけですから、この除湿機なら80分で片付けてくれる、ことになります。ただし、それは家に全くスキマがない、しかも換気していない状態ですから、現実的ではありません。換気はどうしても必要ですから、熱損失の少ない全熱交換型換気扇をつかうことです。
そして繰り返しになりますが、建物のスキマを極力なくすこと、太陽熱が侵入しないよう充分な遮熱、断熱をすることです。それともうひとつ、シーリングファンなどで室内の空気をまんべんなくかき混ぜることです。するとハワイのヤシの木陰にいるような気分になります。ぜひ、体験してみてください。蛇足ですが、最近売りだし中の輻射式パネルは風を伴わないので、冷房に使う場合時はシーリングファンなどと組み合わせて、室内の空気をまんべんなくかき混ぜる工夫が必要です。輻射式パネルは、冷房にも暖房にも使えるすぐれものですが、、高い!!
私がいつも忘れずにいることは「目的と手段を取り違えないように」という気持ちです。人が快適に、健康に暮らすことが目的なのですから、目的を達成するため費用対効果を考えて手段を選ぶのが建築家の役目です。つまり、新しくて高価な設備を取り入れるよりも、前からどこにでもある設備を上手に組み合わせていくことです。 ちなみに三菱のハイパワー除湿機は、価格ドットコムで見ると3万円ほどで買えます。エアコンも複雑な機能がついているものは避けるべきです。シンプルisベストです。ただし、copは6ぐらい欲しいものです。(COPとは成績係数と呼ばれ、エアコンが作り出す熱・冷熱量の消費電力に対する割合を示し、数字が多いほど効率が良い)
まとめ
これは私と建築物理専門家が、私費を投じてでも日本の家を世界レベルにしたいと志すクライアントの協力のもとに、いろいろな実験住宅を建てさせて頂いて得た答えです。 私のクライアントはお医者が多く、エクセルギー理論にもとづいた外断熱工法の発展に医学的な側面からアドバイスをいただきました。
1. |
人は、代謝によって作られたエネルギーの75%以上を体温の維持にう。 体温の維持=生命の維持といえるほど大切なことである。 |
2. |
寒いときに体が震えるのは、筋肉を動かして体温を上げるため。 暑いときは汗をかいて皮膚表面をぬらし、熱を逃がして体温昇を防ぐ。 |
3. |
2のとき、本来ならさまざまな細胞活動のために消費できる高貴なエネルギーを、体温維持のために使ってしまったわけだ。 劣悪な住環境に暮らすと体温維持ばかりにエネルギーを消費して疲れるし、時には病気の原因にもなる。 |
4. | 私たち建築家は、体温維持を助ける温熱空間をつくり、代謝に寄って作られた高貴なエネルギーを、さまざまな細胞活動に使って欲しい。 |
では、どんな建築空間を作ればよいのか?
それはまるまる、ハワイの夕暮れの環境だ! ハワイが永遠のリゾートである秘密は、これだったのですね!