熱容量と蓄熱

いかがでしょう? 遮熱と断熱。
おぼろげながらイメージを掴んでいただけましたでしょうか?
ではそろそろ、外断熱と内断熱のお話に入って行きましょう。どちらも建物の構造体はコンクリートが基本です。
木造は外張り断熱といって、外断熱とは呼びません。鉄骨造も外断熱とは呼びません。
なぜなら、「外断熱」の定義はつぎのようになっているからです。

「主にコンクリート構造物など、熱容量の大きい建物の外側に断熱層を設け、建物を外気から断熱して、建物の蓄熱(または冷却した状態)を逃がさないようにする方式」

ここで重要になってくるのが熱容量蓄熱の二つです。 まず、熱容量について勉強してみましょう。
いろいろな素材の中に、どれだけ熱を蓄えることができるかを表すのが熱容量です。
熱容量はつぎの計算によって求めます。(比熱=1グラムあたりの熱容量)
身の回りの素材、空気、水、コンクリート、木材の熱容量はつぎの通りです。

【空気】

密度 1.23Kg/㎥(立法メートル)
比熱 0.24kcal/kg・℃
熱容量 1.23×0.24=0.295kcal/㎥・℃

【水】

密度 1000Kg/㎥(立法メートル)
比熱 1kcal/kg・℃
熱容量 1000×1=1000kcal/㎥・℃

【コンクリート】

密度 2250Kg/㎥(立法メートル)
比熱 0.2kcal/kg・℃
熱容量 2250×0.2=450kcal/㎥・℃

【木材】

密度 600Kg/㎥(立法メートル)
比熱 0.38kcal/kg・℃
熱容量 600×0.38=228kcal/㎥・℃

 

「木材はコンクリートの半分の熱容量があるので、外断熱と呼んでも良いのではないか?」とお考えになるかもしれませんね。でも実際に、一軒の家を建てようと思ったら、コンクリートや木材をどれくらい使うかを知らないと比較できません。

一般的な2階建の家(1、2階の合計100平方メートル)で比べてみましょう。
コンクリート造の場合は、基礎を除いておおよそ60㎥(立法メートル)のコンクリートを使います。よって、コンクリートの熱容量は450×60=27000 kcal/℃となります。

木造の場合は、同じ大きさの家でおおよそ20㎥(立法メートル)の木材を使います。
つまり、木材の熱容量は228×20=4560 kcal/℃となり、コンクリート造の家の6分の1程度となります。
ここまで見て、「6分の1が多いか少ないかわからないけど、けっこう熱容量あるじゃん」と思いませんか。実は私もそう思いました。

2つ目の要素は蓄熱です。蓄熱とは熱を貯めておくことです。熱を貯めとくといわれてもイメージが掴みにくいですね。そこで貯金をイメージしてみてください。

5年ものの金利が高いのは長期間束縛されるから

5年ものの金利が高いのは長期間束縛されるから

普通預金はいつでも自由にお金を引き出すことができますが、定期預金はそうはいきません。たとえば100万円の定期預金をしていても、基本的には期日がこないと出せないわけです。
実際にはこれでは不便なので、定期預金でもお金を出すことができる仕掛けになっていますが、それは自分の定期預金から「借りる」という形になって、金利を取られたりするので損です。
貯金の量も大事ですが、「出し入れのしやすさ」も大事ですね。

建物に蓄熱する場合は、とくに熱の出し入れのしやすさが大切になります。というのは、一日のうちでもかなりの気温差があるからです。秋口など、昼間は汗をかくほど熱いのに夜はすっかり冷え込む日がありますよね。そんなとき、貯めておいた熱を素早く出し入れできないと役に立ちません。

この「熱の出し入れのしやすさ」は、熱伝導率に左右されます。ご存知のように金属は熱伝導率が高いです。もしヤカンの取っ手が金属だったら熱くて持てません。だから樹脂でできています。

取っ手が金属だったら、暑くて持てない

取っ手が金属だったら、暑くて持てない

つまり金属のように熱伝導率が高すぎると、「熱っ!」とやけどしたり、「冷たっ!」とゾッとしたりするので、人間が住む環境としては不向きなのです。

とつぜんですが、これは何でしょう?

上の段に入れた氷の冷気で、下の扉の食品を保冷する

上の段に入れた氷の冷気で、下の扉の食品を保冷する

還暦を迎えた方ならすぐにわかると思いますが・・・そうです、木製の冷蔵庫です。一番上のドアに氷を入れておいて、その冷気によって、下の段に入れた食品を保存するのです。
なぜ木製なのかというと、もちろん木材の熱伝導率が低く、保温するのに向いているからです。

ついでにもうひとつ、面白いものをお見せしましょう。「五右衛門風呂」です。

底に木製のスノコを敷かないとヤケドする

底に木製のスノコを敷かないとヤケドする

鋳鉄の浴槽に水を入れて、下からモロに火を炊きます。そこに人間が入るわけですから、下手をするとやけどします。そこで、スノコ(隙間のある木製の床)の上に座ります。 熱伝導率の高いスチールでお湯を沸かして、熱伝導率の低い木製の床に座るという超合理的な?お風呂です。

木材の熱伝導率は0.08~0.15kcal/m・h℃で、鉄の熱伝導率は75です。
木材の熱伝導率をざっくり0.1とすると、鉄の熱伝導率は750倍もあるわけです。これはヤケドをするわけだ・・・

木材の熱伝導率は0.08~0.15 kcal/m・h℃とかなりの幅がありますが、簡単に言うと柔らかくて軽い木(たとえば杉など)の熱伝導率は低く、硬くて重い木(たとえばナラやブナ)の熱伝導率は高いのです。
ですから、無垢の杉板なら床暖房無しでも温かいです。ちょっと大げさかもしれませんが、断熱材の上を歩いているようなものです。
ちなみに、グラスウールやポリスチレンフォームなどの断熱材の熱伝導率は0.04 kcal/m・h℃程度ですから、木材の熱伝導率は断熱材に近いわけです。

話が広がってしまいましたので、まとめまさしょう。
熱をたくさん貯めておけて、熱の出し入れもしやすい建築材料は何でしょうか?
ズバリ、コンクリートです!
コンクリートの熱容量は450kcal/㎥とかなり大きく、熱伝導率は0.9 kcal/m・h℃と、調度良いころあいです。(木材の約10倍であり、鉄の75分の1)
この数字がベストかどうかは別として、家を建てるのにどーせ使う材料であり、値段も安いので「持って来い!」なわけです。
と、いうわけで、今一度、外断熱の定義を振り返ってみましょう。

主にコンクリート構造物など、熱容量の大きい建物の外側に断熱層を設け、建物を外気から断熱して、建物の蓄熱(または冷却した状態)を逃がさないようにする方式

つまり、断熱材を家の外側に貼るか、内側に貼るかにこだわる理由は、断熱力ではなく、蓄熱なのです。くどいようですが、蓄熱が肝です。