カロリーの行方

ファミレスなどでメニューを見ると、トンカツ定食950kcalなどと表示されている。
この950kcalという数字はトンカツ定食の食材を燃焼したとき得られる熱エネルギーの量を示している。
この熱エネルギーは最終的には、皮膚からの放熱・汗・小便などとともに身体の外部へ放出される。950kcalまるまる放出されるのだ。
さもなければ、熱が出るか、ブタになる。

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熱エネルギーそのものが重要なら、トンカツ定食を食べずに燃やして炎にあたれば良さそうなものだが、そんなはずはない。
では、食べる意味とは?
もちろん、栄養が欲しいからである。
栄養によって細胞がさまざまな活動し、体を構成・維持し、考え、筋肉を動かす。
その結果発生した「温エクセルギー」で体温を維持する。
これはパソコンで高度な仕事をした結果、発生した熱で足元を暖めるような具合だ。
余熱を利用して体温を維持できればこれに越したことはない。

出典:中外製薬HP

出典:中外製薬HP



ところが15℃以下くらいになると「温エクセルギー」が足らなくなるので、細胞が本来の活動をするためのエクセルギーがダイレクトに体温維持に使われることになる。
これは電気でいきなり湯を沸かすティファールのように乱暴でもったいない使い方だ。
よって、寒いときは体温を維持するだけでも疲れる。

逆に暑いと汗がでる。汗を出すにもエクセルギーが消費される。
発汗が正常に働かないと体温が上がってしまってたいへんなことになるので、人体は必死で汗を出す。
下のグラフのように、暑くも寒くもない(23.5℃)ときに、温エクセルギーの消費が最小となる。 つまり「楽」なのである。これは「快適」の大切な要素のひとつである。

出典:東京都市大学教授 宿谷昌則著エクセルギーと環境の理論

出典:東京都市大学教授 宿谷昌則著エクセルギーと環境の理論



ここで注目してほしいのはグラフのカーブの特徴である。
23.5℃(寒くも暑くもない)を境に、寒くなるとエクセルギー消費がどんどん増える。
ところが暑い方場合はそれほど増えない。「人間は動物界きっての汗かき」で述べたように、人間は汗をかいて体温調節するのは得意なのである。
ただし、汗を上手に引き取ってくれる環境がないと蒸し暑くて仕方がない。超不快!
この環境をつくることがこのサイトの肝といっても過言ではない。

そしてひとつ、感覚を掴んでほしいことがある。
23.5℃と15℃とのエクセルギー消費の差は1.8W/㎡。
23.5℃と30℃のエクセルギー消費の差は0.2W/㎡。
よくわからないが、なんとなく小さな数字だと思わないか?
これは、人体がとても繊細だということを示している。
だから強烈な冷暖房は体に毒なのだ。

さらにもうひとつ、掴んで欲しい感覚がある。
「暖房とは体を加熱すること」「冷房とは体を冷却すること」と思っているだろうが、それは違う。
なぜなら、冬の気温も夏の気温も体温(37℃)よりは低いからだ。
冬の気温は体温との差がかなりあり、排熱スピートが早すぎて困るので緩やかになる環境をつくらねばならない。
体を加熱するのではなく、排熱スピードを緩やかにしてあげないといけない。
これらは似て非なるもの、である。
出典:東京都市大学教授 宿谷昌則著 エクセルギーと環境の理論

出典:東京都市大学教授 宿谷昌則著 エクセルギーと環境の理論


夏の気温は体温に近く、湿度も高いので体からの排熱スピードが遅すぎて不快になるので、排熱を助けてあげることが必要になる。
あくまで冷すのではなく、排熱を助けてあげることが大事なのだ。
エアコンから低温・低湿な空気が吹き出してきて、部屋の空気は汗を吸い取る強制力をもつことになる。つまり、汗は受動的に拡散する。(連行される)

それと比べて、ハワイのオープンエア(周囲の床・壁・天井が夜中に放熱して蓄冷されており、27℃程度を保持しているところへ30℃の微風がある状態)のとき、発汗という体温調節の仕組みを活かした自然の涼しさを得る。
これらもまた、似て非なるものである。マニアックな話で申し訳ない。
「もうどちらでも良いでではないか」と言われそうだが、たいへん重要な違いである。

くどいようだが、これだけは覚えておいてほしい。
「空気を温めたり、冷やしたりする方法は宜しくない」ということである。
これについては別のページでしっかり説明する。

ほぼ最悪の環境 ちなみにこの広告のサーモグラフィは最悪の環境を示している。
まず、壁際と窓のブルー系の部分を黄緑にすることが先決だ。
そして足元であっても体温以上の温度を吹き付けるなんてもってのほかである。
敏感な人なら吐き気がする。
ではなぜ、エアコンメーカーはこのような製品を作るのか?
それは日本の住宅事情が劣悪であるからだ。それに対応した製品を作るのがメーカーの宿命である。
住宅事情を正しい方向に変えていけるのは我々建築家しかない。


□□□ まとめ □□□

1.人間は弱々しくて繊細な動物なので、強烈な冷暖房は毒
2.人体からの排熱が自然なスピードになる環境をつくることが快適の鍵
3.空気の温度を上げ下げする方式は宜しくない

理想の環境を自然のうちに獲得しているのがハワイである。
理屈でわからなくても体は正直だ。 一度ハワイへ行くと、また行きたくなる。

ハワイ そよ風