私は京都生まれの京都育ちです。乱開発によって「京都の町家」は絶滅の危機に貧しましたが、若い世代に見直されてカフェやイタリアンという形で生き延びてくれました。
京都の町家はウナギの寝床と呼ばれる、間口が狭くて奥に長い家屋。通り沿いはお店でその奥に中庭があり、さらに奥に住宅部分があります。
打ち水された中庭の涼風が家の中を通り抜ける・・・祇園祭になると麻暖簾(のれん)、籐(とう)の建具に取り替えて視覚的な涼をとる・・・。
ほんとうに魅力的ですね、ずっと残しておきたいと思います。
深い軒をもった南の縁側で、風を感じながらスイカを食べる心地よさ・・・。
いまでは現実ではなく想像の域になってしまった日本の風景ですが、それでもわれわれ日本人は通風が大好きで、どんなに冷房が当たり前になっても、風通しを捨てようとはしません。
とはいえ、われわれは通風についてよく知っているのかといえば、情緒的に感じているだけで、科学的にまるで理解していません。
通風を勉強しようにも、専門書として編集された本は見当たりません。
(南雄三著 通風トレーンニング はじめに)
そこで私は南雄三先生の著書「通風トレーンニング」にて勉強させていただきました。
全ページカラーのイラスト付きでとても分かりやすく、根拠もしっかりした本です。
私は1ページずつ丁寧にマスターしながら読みました。
知らなかったことを知る喜びでワクワクします。こんなにワクワクしたのは久しぶり!
南雄三先生のパッシブ口座 通風トレーニング
ところが、、ほぼ最後の章にて次のことが書かれていたのです。
1. 敷地に余裕のある住宅地(区域建ぺい率25%前後)であっても、密集住宅地(同 40%)と比べて、通風計画上優位にあるとはいえない。
2. 住宅地では、2つの窓うち少なくとも1面が風上側に位置する(図の◆)と、2つ の窓がともに風上側に位置しない場合(図の▲)では、際立った違いがない。
窓が風上側に位置する配置で0.1程度、風上に位置しない配置で0.05程度が平均で あることから、住宅地において風向きを意識した窓の配置を計画したとしても、通 風量が格段に増えるわけではない。
■ これらのことから、区域建ぺい率が25%程度の、比較的ゆったりした敷地でも、もっ と密集した敷地でも、負圧係数さは同じ程度に小さくなり、野中の一軒家でなけれ ば、直接風をつかむことのメリットは見いだせないことがわかります。
私は、愕然としました。と同時に、南先生の潔さに感銘を受けました。
もともと通風には前向きでなかった私が、素直になって勉強しただけにショックは大きかったのです。
しかし、得ることはありましたので、密集地の住宅でも使えるコツだけ整理してあなたにお伝えしようと思います。
私が風通しに積極的でないワケ
でもその前に、なぜ私が通風に積極的でないかを説明させてください。
このグラフをご覧ください。私が設計した外断熱蓄熱工法(エクセルギー理論を実現できる家)の室内の温度のグラフです。
京都の自宅にて1年を通して、1時間に1回測定してグラフにしました。
これは10月の温度変化ですが、なぜ10月を選んだかというと、冷房も暖房もいらない一番すごしやすい季節だからです。
まず青い線をご覧ください。青い線は屋外の気温です。
日中は30℃近くまで上がる日もありますし、夜は15℃くらいまで下がる日があります。
つまり、日中は汗ばむくらい暑いのに、夜はファンヒーターが恋しくなるくらい冷え込むわけです。
今度は黒い線をご覧ください。これは家の中の温度です。まったく一定です。
暑くもなく寒くもない25℃です。
実際にこの家に住むとどんなふうに感じるか・・・ちょっとだけ聞いてくださいね。
たとえば朝、愛犬の散歩に行くとき、玄関を出ると冷っとした冷気を感じます。
でも寒くはありません。体が芯まで温まっているからです。
逆に仕事から帰ってきて玄関の扉を開けるとホッとした暖かさが迎えてくれます。
家が「おかえりなさい」と暖かく迎えてくれるみたいです。
10月のある日、仕事中に忘れ物を思い出して家にとりに帰りました。30℃近くあるなかを汗だくになって自転車で家にたどり着きました。
家の中に入るとス~っと汗が引きました。
このようにお話すると、ちょっとオーバーじゃない?と思われるかもしれませんが、確実にこうなります。グラフは正直です。
さて、なんでこんな話を聞いてもらったかというと、私は風通しすることに積極的でない理由をお話したかったからです。
風通しするということは、すなわち屋外の気温(グラフの青い線)に近づくということです。
つまり、日中は暑く、夜は寒くなるということです。
風通しが好きな方は、今お住まいの家をベースにお考えになっているのだと思います。
従来の家は気温が27℃なのに室内は33℃もあるというケースが多発します。
だから風通しをよくして涼しくしたいと思われるのは自然です。
では、私の作る家で「風通しをしてはいけないのか?」というとそうではありません。
爽やかな10月の風はどんどん家の中にいれて楽しみましょう!
でも、楽しんだ後は開けっ放しにせず窓をしめてくださいね。
窓をしめればまた、家のなかはすこぶる安定して、過ごしやすい温度を保ちます。(グラフの黒い線)
風通しのアイデアの現実性(都市型・外断熱蓄熱工法の家)
アイデア | 現実性 | 理由 |
ナイトパージ | ☓ | ナイトパージとは、真夏でも夜の涼しい外気を取り入れることだが、ヒートアイランド現象で夜の外気も暑く実用にならない |
卓越風 | ☓ | 卓越風とはある一地方で、ある特定の期間(季節・年)に吹く、最も頻度が多い風向の風のことだが、卓越風が吹くのは屋根の上だけなので、実用性が低い |
ウインドキャッチャー | ◎ | 開窓の開く方向を変えるだけで数倍の風が得られる 袖壁をつけると袖壁がない場合の数倍の風が得られる |
屋根勾配と屋根の窓 | △ | 都市計画上の建築制限と卓越風の方向が一致しない ソーラー利用のためのベストな屋根勾配としたい |
温度差換気 | ☓ | そもそも、温度差換気は通風にくらべて影響力が小さい |
窓の開き方による風の取り入れ | ◯ | 縦すべり出し窓は風通しをコントロールできる 横すべり出し窓はどんな向きからくる風も受け入れる |
洗濯物を乾かす | ◯ | 風が洗濯物周囲の湿気で飽和した空気膜を吹き飛ばしてくれる |
上の表の◯と◎の項目はぜひ取り入れたいと思いますので、もう少し詳しくご説明させてください
ウインドキャッチャー
国土交通省国土技術総合研究所のレポートによると、都会で期待できる風通しは屋根の上か、道路しかないとのことです。でも逆に言うと、道路には風が流れるわけですからそれをキャッチしない手はありませんよね。道路に流れる風をうまくキャッチするためには袖壁が有効です。袖壁をどこにつけるかでお部屋に出入りする風の量がぜんぜん違ってきます。
袖壁なしに比べると、中央に袖壁をつけた場合、お部屋に取り込むことのできる空気の量は4倍位になります。空気の取り込み量で最大なのは風下側に袖壁をつけた場合ですが、風向きが逆になると効果が激減します。その点、中央に袖壁をつけるとどちらから風が吹いても風を取り入れることができます。
窓の開き方による風の取り入れ
まずは日本の窓の代表「引違い窓」です。「 正面から来る風は取り入れやすく、側面から来る風は取り入れにくい」と、方向性としてはあなたの予測通りだと思いますが、側面からの風を50%も取り入れられるとは、ちょっと以外じゃないですか?
私は「正面からの風は100%近く入ってきて、側面からの風は10%程度しか入らないだろう」と思っていました。
さて、次は縦すべり出し窓です。これは予測しやすいですね。
側面からの風をモロに受ける方向に窓を開いてやれば、思いっきり取り込めるますが、そのかわり、逆の方向からの風はスルーしてしまうわけですね。最後に横滑り窓です。これは意外でした。というのは・・・
側面からの風を80%もお部屋に取り込めるとは思っていませんでした。しかも、右からの風も左からの風もどちらからも取り入れる、優れもの!しかも、横滑りにはもうひとつメリットがあります。それは、雨が降ってきてもお部屋に入りにくいのです。
洗濯物を乾かす
風がないと、洗濯物周囲の空気が湿気で飽和状態になります。この飽和状態の膜に覆われた洗濯物は、それ以上蒸発できなくなります。この状態では洗濯物は乾きません。風はこの飽和状態の空気層の膜を吹き飛ばすことができるので、洗濯物の水分は自由に蒸発することができるようになります。
室内に洗濯物を乾かす場合も、通風が効果を発揮します。といっても、そんなに都合よく自然の風が吹いてくれないので洗濯物用送風機(たとえばパナソニックせんたく日和)をつかうと便利です。もちろん扇風機でもOKです。
ちなみに私は、冬場は外でなかなか洗濯物が乾かないので部屋干しして扇風機で乾かしていますが、なかなか良く乾きます。しかも、洗濯物が加湿器の役割としてくれるので喉にも優しいです。外断熱なのでもちろん結露しません。余談ですが、以前私は部屋干しが臭くて困っていました。部屋干用洗剤や除菌材をいろいろ使ってみましたが、高いわりに効果がありませんでした。あるとき、「洗濯機の水量が足りないのでは!?」と閃いたのですが、最近の洗濯機は勝手に節水するので水量を増やせません。そこで洗濯機に入れる衣類を半分くらいにしてみました。そしたら部屋干ししても一切臭わなくなりました。やっぱり洗濯機の水量が足らなかったのですね。節水も大事ですが、お部屋干し洗剤や除菌剤など高い薬を使うくらいなら、必要なだけ水を使うほうが良いのではないでしょうか?地熱利用の現実性
地熱利用とは、地中の温度が一年を通じて安定していることを利用することです。エアコンはヒートポンプといって、熱(Heat)を汲みあげる(Pomp)構造になっています。たとえば冬の気温が0℃だとするとそこから熱を組み上げるのは大変ですが、地中の温度が15℃だとすると楽に組み上げることができます。つまり電気代が助かるということです。
逆に夏は、30℃以上もある屋外へ熱を排出するよりも、15℃の地中へ排出したほうが楽で、電気代が助かるというわけです。
このように説明すると、とてもお得な感じがしますが、、実はそうでもありません。 というのは、この装置は300万円もするからです。ちょっと、工事がたいへんすぎるのか・・・
自然エネルギーを利用するのは良いことですが、ちょっと300万円は高すぎますね。 そもそも夏に使う冷房代は思いの外安く、一般家庭で1ヶ月約1万円です。断熱性能のしっかりした家だと1ヶ月5000円程度ですみます。
暖房はわざわざ地熱を利用しなくても、ローテクで故障の少ない太陽熱温水器を利用すべきです。太陽熱温水器で床暖房もできます。別のページで詳しく説明しますが、太陽熱温水器の進化版の価格は150万円であり、地熱利用の半額です。
雨水利用の現実性
雨水利用はとてもエコな感じがしますが、結論から言うとあまり役に立ちません。気象データをご覧ください。これは2014年6月の東京都での降水状況です。梅雨であっても毎日雨が降るわけでなくムラがあるのです。たとえばあなたの家の屋根の面積が60㎡だとして、どんな具合になるかデータに沿って計算してみましょう。6月6日は大雨で、一日に120㍉も振りました。60㎡×0.12m(120㍉)=7.2立方メートル!と大量の水です。
でも、一般の雨水利用タンクは200リッター程度ですので、降った雨のほとんどを捨てることになります。6月13日までは少しづつ雨が降ったのでタンクの水は確保できますが、一日100リッター使ったとするとタンクの水は6月15日に空になります。そして6月21日まで雨が降らないので一週間ずっとタンクは空です。雨の日にはもちろん水やりの必要はありませんし、晴れた日に水をやろうと思うとタンクが空・・・という皮肉な状態になります。 では、庭の散水以外の用途、たとえばトイレに流すとかを考えた場合、どうなるでしょう。
まず、大量の水を貯めるタンクが必要になります。10立方メートルほどのタンク、すなわち10トンダンプくらいの大きさのタンクを、いったいどこに置くのか・・・
もう一つ問題があります。雨水は埃などが含まれているので、かなり高性能なフィルターを装備しないとトイレの水が止まらなくなったり、便器が汚れてきたりします。もちろんフィルターの掃除や取替も必要です。 と、いうわけで、、雨水利用は没です。
それよりもっと、良い手があります。それは節水器具です。
トイレはもちろんですが、シャワーヘッドの節水効果も高いです。一般的なシャワーヘッドの水が出る穴径は、0.5ミリ~1ミリで穴数が35~130個です。これを穴径0.3ミリで穴数が240個にすることによって、シャワーの線を細くし勢いを上げ、密度の高いシャワーになります。肌あたりが良く、やわらかい浴びごこちが魅力です。髪の根元までしっかり届く極細ストレート水流でシャンプーを効率よく洗い流せるので、結果的に節水になります。すっかりRAINYのコマーシャルになってしまいましたが、理にかなっていています。
これはなにも、お風呂のシャワーに限ったことではなく、キッチンや洗面でも同じことです。