窓からの太陽熱の取り入れ

 理   想 

いかにも暖かそうだが・・・

この画像は、あるハウスメーカーのモデルハウスで、「真冬でもこんなに太陽の恵みがいっぱい! とても明るく暖かいです!」という触れ込みです。たしかに明るくて暖かそうですね。ほんとうに理想的なお家です。

野中の一軒家に建てるつもり?

野中の一軒家に建てるつもり?


でもね、あくまでこれは理想であって、現実にそんなに日当たりの良い土地があるでしょうか? 
あるとしたら通勤不可能な超田舎か、田園調布のなかでも一等地、1区画数億円はする土地でしょう。

数億円もする田園調布の土地

数億円もする田園調布の土地

私は現実主義ですから、そんな夢見るユメ子さんのような発想はできません。「大きな窓さえあければ太陽の恵みがふんだんに得られる」というほど現実は甘くないのです。

 現  実 

以下の7枚の画像は、東京近郊に実際にある街区を3Dで再現し、実際の太陽の高度と角度を計算して、実際にどれだけ日照が望めるかシミュレーションしたものです。
真ん中あたりに男女2人が立っているのが敷地です。2人の名前は吉村さんといいます。
奥の方に5階建の銀行(ひな壇状の建物)と4階建の個人ビル2棟が建っていて、ビルの向こう側に幹線道路があります。
敷地周辺は優れた住環境を確保すべく、厳しい建ぺい率や高さ制限がなされた地区です。(簡単に言うと、100㎡程度の土地には2階建までしか建てられない住居専用地域)
時期は冬至(12月22日)に設定しました。なぜなら、太陽熱をどれだけ取得できるかをシミュレートするのが目的なので、太陽がいちばん恋しい時期に設定したのです。

9時の日照(冬至:12月22日)

9時の日照(冬至:12月22日)

午前9時:吉村さんの敷地はもちろん道路も完全に日影です。敷地の北西のガレージに日照があるのは、吉村さんの敷地が更地だからです。

10時の日照(冬至:12月22日)

10時の日照(冬至:12月22日)

午前10時:依然として吉村さんの敷地に日射は届きません

11時の日照(冬至:12月22日)

11時の日照(冬至:12月22日)

午前11時:道路が日射で明るくなり、吉村さんの敷地にごくわずか日射がとどきました

12時の日照(冬至:12月22日)

12時の日照(冬至:12月22日)

正午:道路から差し込む直射日光で、吉村さんの家の道路に面した部屋はとても明るくなるでしょう

13時の日照(冬至:12月22日)

13時の日照(冬至:12月22日)

午後1時:正午と同じく、吉村さんの家の道路に面したお部屋はずいぶん明るくなるでしょう

14時の日照(冬至:12月22日)

14時の日照(冬至:12月22日)

午後2時:喜んだのもつかの間、道路を挟んで南西のお家の影が日射を邪魔してきます

15時の日照(冬至:12月22日)

15時の日照(冬至:12月22日)

午後3時:冬至の午後3時はもう夕方の気配で、日射は期待できません。結局、吉村さんの土地では、いくら大きな窓をつくっても真冬には2時間ほどしか直射日光が得られないということなんです。

いかがですか? これが日本の冬至における、都会の平均的な日照条件です。これより条件が良くなるのは、南向きの土地、つまり敷地の南側に道路がある場合だけです。だから南向きの土地は人気があって値段も高いわけですね。
でも皮肉なことに、南向きの土地を買ったとしても、道路を挟んで更に南の土地は高さ規制が緩和されるので、手放しで喜んでいられません。

明るいお部屋をつくることは、できますよ。

どうですか、がっかりしましたか?
でもまあ、悲観的になることはありませんよ。太陽の光は直射日光だけでなく、間接光もたくさんあるので、お隣の家とのスキマがあればお部屋はけっこう明るくできます。
そのときのコツは、すでに建っている隣の家の形をチェックして、うまい具合にスキマから太陽が入ってくる設計をすることです。
また、お隣の家の窓と目がささないように、あなたの家の窓の形や開き方を工夫することも大切です。そうすれば、明るくて住みやすい家になります。
もし、お隣が更地(何も建っていない土地)なら、将来どんな建物が建つ可能性が高いかをシミュレーションしておくことが必要です。これはできなさそうで、出来ます。

 本 題 : 太陽熱の取り入れは得? 損?

このページの本題は、採光(お部屋を自然光で明るくすること)ではないのです。
太陽エネルギーのうち、光だけでなく暖かさを積極的に取り入れたほうが得か? 損か? というお話です。
結論から言いますと、「損」です。
なぜなら上の画像が示すように、直射日光が入るのは道路に面した窓だけであり、それも2時間程度です。そして残る22時間は室内の暖かさが窓から漏れ出てしまします。
いくら高性能な窓を使ってもダメです。なぜなら、断熱性のすぐれたアルミ樹脂複合サッシュにLow-E高断熱ガラスを嵌めたものでさえ、ちゃんと断熱した壁と比べれば、6分の1程度の断熱性能しかないからです。
つまり、窓を大きくすれば太陽熱をもらえるから暖かい部屋になる、というのは妄想です。

 根拠とベターな活用法は?

簡単に「損!」といってしまいましたが、以下にちゃんと根拠を挙げます。

日射の取得グラフの計算根拠

東向きの土地

午前の日射はありがたく感じる

午前の日射はありがたく感じる

「東向きの土地」とは敷地の東側に道路があって、午前中の日射を受けやすい土地のことをいいます。(冬至:12月22日)
まず折れ線グラフをご覧ください。青色の折れ線は窓からの熱損失、つまりお部屋の暖かさが窓から逃げていく熱量を示します。赤色の折れ線は日射によって窓から入ってくる熱量を示します。
一日のトータルを棒グラフにしました。入ってくる方が多いですね。
でも、「窓を大きくすれば冬でもお部屋が暖かくなるのだ!」と思うのは早合点です。このグラフは日の出から日没までずっと太陽があなたの家に降り注ぐという仮定です。つまり、野中の一軒家か田園調布の数億円もする土地という特殊なケースです。
一般の土地は上のシミュレーションでわかったように、一日の内2時間程度しか日射が得られません。しかも、晴れの日ばかりではありません。そうなると、あきらかに窓からの太陽熱の収支は赤字でになります。

西向きの土地

西日は嫌われますが・・・

西日は嫌われますが・・・

西向きの土地は、東向きの土地と午前と午後が逆になるだけで、同じくらいの日射量があります。なのになぜ西日が嫌われるかというと、夏の午後、すでにイヤというほど気温が上がったころに追い打ちを掛けるように日射が襲うからです。
つまり日射のタイミングが悪いわけです。「間が悪い」と嫌われますよね。
でも、「西側に窓をつけるな!」というのはどうかと思います。窓はお部屋を明るくしますし、広く感じさせます。また風通しもできるので窓は大事です。
西面に使う複層ガラスは日射遮蔽型Low-Eガラスを使いましょう。できれば窓の屋外側に可動ルーバーなどがあると、夏季の西日を避けられます。

南向きの土地

東向きと西向きは期待はずれでしたが、南向きは期待できますよ。

南向きの土地は日射の活用が期待できるぞ!

南向きの土地は日射の活用が期待できるぞ!

なるほど、南向きの土地が人気があるわけでがわかりました!
冬季において南向きの壁面に凄い日射量をくれるからです。
しかも、夏になると太陽は高い角度(78度)から照らしてくれるので、ヒサシの出幅を調整すれば「夏の日射だけ防ぐ!」という、とても都合がよいことが簡単にできるからです。
ただし、このグラフはあなたの土地の南側になにも障害物がない状態ですから、市街地であればよくても半分くらいの恩恵だと思ったほうが良いでしょう。
では、もっとも日射が欲しい冬の間、お天気が良い日はどれくらいあるのでしょう? 気象台のデータを調べたところ、2013年12月1日から2014年3月31日の121日間中、67日がほぼ一日中晴れでした。(東京都)
日本の冬は想像以上に太陽が活躍してくれています。これは利用できるぞ!

南向きの土地でもさすがに曇りや雨の日は・・・

南向きの土地でもさすがに曇りや雨の日は・・・

屋根に注目!!

ここで、もう一度、上の7枚の画像をご覧ください。冬至(12月22日)は太陽が低い角度(31度)から照らしてくれるので、お隣の家がじゃまになって、直射日光はほとんど得られません。
が、、よく見ると、屋根の上は常に明るいじゃ、あ~りませんか?(画像では真っ白)
フムフム・・・これを利用しない手はありませんね!
都市計画法でひとかたまりの地域は一定の高さ制限をかけているので、どの家もたいてい同じ高さになります。なので、等しく平等に、屋根の上はお天道様があたるのです。

屋根の日射のベストな利用法は別のページでご紹介しますね。