外断熱の肝は蓄熱である。というお話をくどくど致しましたが、では、その蓄熱とやらが、どんな効果を発揮するのでしょう?
結論から言うと、乗り心地、いや、住み心地が変わります。自動車の乗り心地に例えると、レクサスと軽自動車との違いです。同じ距離を走ってもレクサスのほうが軽自動車より疲れにくいことは容易に想像できると思います。その要因を考えてみると、振動が少ないことと、静かなことではないでしょうか?
自動車の振動にあたるのが家の中の温度や湿度の変化です。蓄熱量が大きいと家の中の温度や湿度はたいへん安定します。どれくらい安定するか下のグラフをご覧ください。
上のグラフは京都市内の外断熱の家で、10月1日から31日まで毎日1時間おきに気温を測ってグラフにしたものです。青い線は屋外の気温です。ずいぶんと波が激しいですね。日中は30℃近くまで暑くなる日があると思うと、夜中は15℃を下回って冷え込む日があります。黒い線は家の中の温度です。ずっと一定です。なぜこんなに安定するのか、根拠をあげてみましょう。コンクリート造の2階建ての家(1、2階の床面積の合計が100平方メートル)を例にして、室内の空気の熱容量とコンクリートの熱容量を比較してみます。まず、空気です。家の室内空気の総量はどれくらいあるでしょう?床面積が100㎡で、天井の高さが2.7mとすると、室内空気の総量は270㎥(立法メートル)ですね。
【空気】
密度 | 1.23Kg/㎥(立法メートル) |
比熱 | 0.24kcal/kg・℃ |
熱容量 | 1.23×0.24=0.295kcal/㎥・℃ |
室内空気の熱容量は、0.295kcal/㎥・℃×270㎥=79.65 kcal/℃ となります。
【コンクリート】
密度 | 2250Kg/㎥(立法メートル) |
比熱 | 0.2kcal/kg・℃ |
熱容量 | 2250×0.2=450kcal/㎥・℃ |
「熱容量と蓄熱」でお話したように、一般的な2階建ての家(1、2階の床面積の合計が100平方メートル)の家を建てるのに使うコンクリートの量は60㎥(基礎部分を除く)ですから、 コンクリートの熱容量は450×60=27000 kcal/℃となります。
室内空気の熱容量とコンクリートの熱容量を比較しますと、80:27000なので、約337倍となります。 「どうです? コンクリートの熱容量は凄いでしょう?」 と、自慢気に言われても実感できません、よね。この337倍が何を意味するか?ですが、ひとことで言うと「熱しにくく、冷めにくいことの極み」なのです。よけいに分からなくさせてしまったようで、すみません。ではこの絵をご覧ください。豪華客船と小型ボートの絵です。
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小型ボートは波になされるまま上がったり下がったりしていますが、豪華客船はびくともしません。これは豪華客船の質量が巨大だからです。私の感覚では、豪華客船が乗り心地が良い理由と、巨大な蓄熱量をもった外断熱の家の住まい心地の良さは似ているように思います。
まあ、結局、説明しきれませんでしたが・・・ひとつ例をあげてさせてください。巨大な蓄熱量を持った外断熱の家ではこんなことが起こります。震え上がるほど寒い日に、誰かが室内でタバコを吸って(ダメだと言っているのに!)、とても嫌な空気になりました。まあ、思い切って2~3分間、窓を全開にして換気すれば良いわけですが・・・けっこう勇気、いりますよね。 せっかくエアコンで温めた空気を全部捨ててしまうわけですから・・・もったいない限りです。
でも外断熱の家はコンクリートが大量の熱(室内空気の337倍)を貯めているので、室内の空気が全部入れ替わっても、再び窓を閉めて2~3分もすれば、元の温度にスッと戻ります。別にファンヒーターやエアコンを最強にしなくても、極端な話し、ファンヒーターやエアコンをOFFにしたままでも、元の温度にスッと戻るのです。
まあ、こう言う私も、実は体験するまでわかりませんでした。長くなって本当に恐縮致しますが、もう一つだけ、私が体験したことをお話させてください。
家の中の温度が超安定していると、体が楽なだけでなく、精神的にも安定します。まあ、なんと表現したらよいか・・・ジタバタしなくなったというか、何事も落ち着いて冷静な行動ができるようになったというか・・・。そうだ! 上品でない例えで恐縮ですが、貯金がたくさんあるときの安心感とでもいいましょうか? 貯金がなかったら毎月のやりくりに苦労しますよね。友達の結婚式への招待と、同窓会の誘いが重なって素直に喜べなかったという経験、ありませんか?
でももし、給料の337倍の貯金があったとしたらどうでしょう。「おめでとう!」って心から祝福できますし、誘われたら即OKできて、機会を逃すことがなくなりますよね。
そのことと、室内の温度や湿度が安定していることは、直接関係がないように思えますが、精神的なゆとりができるという点では共通しています。そういう、見えない効果があるのが蓄熱なんです。これ、外断熱の家に10年間住んで実感しました。